リクルート・ユニクロの元人事が描く、介護大国日本に今必要な改革 - DIVERSITY TIMES - 外国人の"今"を知って好きになる。

リクルート・ユニクロの元人事が描く、介護大国日本に今必要な改革

2022.02.15

 

こんにちは。DIVERSITY TIMES ライターの齊藤です。

2021年12月に株式会社メディケアジャパンを創設された大楠 友也さん。
介護の分野で外国人受け入れを進めるため事業を始めたとのことですが、リクルートやファーストリテイリング(ユニクロ)の人事というキャリアを経て、今その挑戦へご決断されたその思いとはどんなものだったのでしょうか。お伺いしてみました。

 
___起業されたばかりということで、お話を伺えるのを楽しみにしていました。メディケアジャパンではどういった事業を展開していらっしゃるのかご紹介いただけますか?

大楠 友也(以下「大楠」):人事の経験を活かして、介護施設における人材マネジメントを行っています。外国人を受け入れるにはどうしたらいいのか、介護事業主さんにお伝えしています。

大楠さんが創設された株式会社メディケアジャパンのHP(上記画面をクリックするとアクセスできます)

 
___なるほど、日本に来てくださった外国の方へのサービスというよりは受け入れ側の準備のお手伝いということですね。介護に関わる外国人材の分野はまだまだ未開拓ということでしょうか。

大楠:介護に関しては特定技能もあり、人材紹介、マッチングの分野は今後盛り上がっていきそうな気がしています。ただ、採用も大事ですが、受け入れ後がしっかりしていないと、定着につながりにくいのです。なので、事業としては、採用よりも受け入れ後の介護分野における言語研修などを行なっていこうと思っています。

政府は、介護の分野で6万人の受け入れを目標として掲げていますが、そもそも使用する言葉が日常用語とは異なります

たとえば、発熱のことは「熱発」、とか。


___単語レベルで違うんですね。

大楠:はい。あとは言葉が不得意なことによって、介護施設にご家族を預ける方が不安に感じてしまうということがあります。そのため、言語のトレーニングが介護施設にとっては重要になってきています。

日本人でも慣れない単語を学習する必要がある(イメージ)

 
___では具体的には、介護分野に特化した日本語研修プログラムの提供、ということでしょうか。

大楠:そうですね。業界特化型の日本語研修プログラムを作っていきたいと思っています。すでに介護は提供していますが、外食やホテル業などのサービス業って、独特の言葉づかいがあると思うので、早くラインナップを揃えていきたいです。

しかし、(もちろん会社としては利益をあげないといけないものの)これは利益を上げるためにしようとは思っておらず、これらは利益度外視で、外国人介護士が当たり前のように使えるようにしていきたいと思っています。こういったサービスが広がることでマーケットは大きくなっていくと思うので、そういうプラットフォーマーになっていきたいです。

あとは介護施設そのものへの研修ですね。介護や医療の分野ってプロトコルが決まっているからこそ価値を出せる仕事なので、イレギュラーが好まれない面も存在します。

でも、一度は外国人を受け入れた施設の多くが「また受け入れたい」とおっしゃられます。

介護系の仕事をしている人はもともと人を慈しむ仕事をしていることもあり、外国人受け入れに向いているのかなと感じます。

 
___日本にいらっしゃる方にとってもいい環境なのかもしれないですね。

大楠:いろんな社会福祉法人の理事長さんなどが日本全国で受け入れを頑張っていらっしゃいますが、もっともっと大手の会社なども受け入れたらいいなと思いますね。日本の新卒採用に似ているかもしれないですね。最初は新卒を受け入れる余裕がない場合がありますが、実際に受け入れてみると先輩のほうもいい緊張感を持てたりしますし。

 
___異文化をもたらす存在という点が共通していますね。医療・介護分野以外でも同じことが言えるんでしょうか。

大楠:この15年、人事に関わっていて、高齢化における従業員の悩みが増えたと感じています。 介護が原因で離職する人が年間11万人弱いるんですよね。働き盛りの人が仕事を辞めてしまうということがじわじわと起きている。こういうところから介護の問題は根深いと思います。

 
 
 
___長年人事に携わられてから起業に至るまでの経緯もお聞きしたいと思います。学生時代にも一度起業されていると伺いました。きっかけは何だったのでしょうか?

大楠:インターンで知り合った地方出身の学生と話したときに、就活にひと月20万使うような状況を知ったんですね。住んでいる地域によってこんなにも格差がある。目の前に課題があったので、あとはやるかやらないかでした。

 
___でも新卒でリクルートさんに入社されているんですね。

大楠:金融の分野だけ就活していたんですけれど、人事やっているんだってね、ということでお声がかかりまして。

学生時代はファイナンシャルプランナーで独立したんです。ずっと若い方向けの保険やライフプランニングをやっていたんですが、お金の相談は結局キャリアの相談に行き着くんですね。なのでFPやってたら人材屋になっちゃった、という感じです。

リクルートではずっと人材の分野で営業やマーケティングの仕事をしていました。採用を含め、リクルートそのものの人事もやっていました。10年間で10回も部署を異動しているんですね。

特徴的な経歴としては、リクルートのノウハウを生かしながら外部で人事コンサルをするということが多かったですね。
代表的なものですと、ファーストリテイリング(以下「ユニクロ」)さんとか、官公庁の人材部門とかですね。

 
___それ以来ずっと人事に関わっていらっしゃるんですね。その後医療・介護に携わられたのはなぜですか?

大楠:シンプルに、日本で一番人手が足りなく困っている分野だからですね。

リクルートやユニクロは採用強者ですが、一方で、プライベートで支援していた被災地などでは全然人が足りていない…という偏った状況を見ていたんですね。じゃあ自分がこれまで学んできた人事の経験をどこに投資しようかと考えたときに、圧倒的に人不足なのが医療・介護の分野だったので、そこに身を置くことにしました。

そのため、リクルート在籍中に地方でも働き医療介護の必要性を感じ、前職の医療コンサルの会社では名古屋のクリニックで働かせて頂き、この分野について学びました。

 
___その中で外国人に関わる問題が見えてきたんでしょうか。

大楠:はい、思ったより人材不足が深刻だったんです。

特に介護は本当に人が来ないんですよね。大手は新卒を採ってなんとかなるんですが、地方だったり規模の小さな介護事業主だとそれができず、過重労働になってしまったりする。働き手と施設利用者双方の命に関わることなので、見て見ぬふりはできないんですよね。

国はロボットや介護士の待遇改善を推し進めているようですが、そういうものってまず経済力やノウハウがないと使えないんですよね。

介護業界の人手不足はもはや当たり前のレベル(イメージ)

しかし、すべからく全ての国民に介護サービスを届けなければならないとなると、そういったテクノロジーには手が出せず、結局は人手不足のままという介護施設がたくさんあります。なので、医療介護分野には外国人の活用が必須中の必須なんです。

 
___介護施設が外国人を受け入れる際にはどういったことが問題になるのでしょうか。

大楠:外国人を受け入れるためには、前提として「いい組織」である必要があります。組織コンディションが悪いところから相談があると、逆にこちらから「そもそも今は外国人を受け入れるのはやめませんか」と提案することすらあります。

そういうところは外国人をただの労働力として見てしまうため上手くいかないことが多いです。

外国人・日本人にかかわらずフラットに「介護施設をよくしていきたい」という想いのある施設は人材が辞めないので収益性もいいんです。なので、僕たちは外国人によりも施設側にアプローチすることが大切だと考えています。

 
___根本的な解決はやはりそこなんですね。そもそも人材不足なのも労働環境の問題がありましたし。「いい組織でなければ」というのは、異文化を受け入れる柔軟性があるからでしょうか。

大楠:それもありますね。あとは介護施設を見極めるポイントとして、仲間・従業員を大切にしているか、があります。

「顧客満足度を上げることには熱心なのに、従業員満足度は気にかけない」というギャップが日本では多い。

世界的にISOもできて今後伸びていくと思うんですが、介護施設でも従業員の幸せを考えているかどうかというのも実は外国人を受け入れる上での重要なチェックポイントです。

外国人を中心に多様的な人材を受け入れる事業所の方が収益が高い、というシンプルな因果関係は今後出せると思います。

 
___そういった労働環境のよさと収益はきちんと比例しているんですね。人事と介護は切り離せないですね。

 
 
 
___リクルートやユニクロでの人事の経験をお持ちだと思うんですけど、今後のメディケアジャパンの事業においてはどういったことが活かせそうですか?

大楠:リクルートは人のマネジメントが上手い企業なんですね。日本の優秀で独立心の強い若者を採用して、その若者が退職する時も上司の関わり方が素敵なので、辞めてもリクルートを好きなままの元社員は多く「元リクルート」の繋がりでビジネスが回る事も多いです。

その、いい意味で「余すことなく人を使う」というノウハウは、介護施設のコンサルテーションにも活きています。例えば、部署移動の伝え方、退職するときの関わり方、こういったことにもノウハウがあるんですけど、これは人事に長年注力してきたリクルートならではですね。

ユニクロはまた毛色が違って、多くが外国人という多様性の文化です。

リクルートは日本人が大半で、若く、エリートというよりは野心のある人間ばかりの、実は単一的な文化を強みとした会社だと思いました。なので、リクルートとユニクロ、どちらも同じ「人事」というポストでありながら得られた学びは全く異なるものでしたね。

人口が減るにしたがって年々HRマネジメントの重要性は上がってきていますし、こういったマネジメントの経験は今後の自分の事業を通して介護施設に余すことなく伝えたいです。

 
___大楠さんの取り組みを応援しております。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

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